【父の通帳は“謎解き”でした】デジタル終活が進まない、私の正直な話

机に置かれた白紙とペン、封筒、伏せたスマートフォン、小さな鍵。家族に大切な情報を書き残すイメージのイラスト ITの悩み

私がコンピューターに触れ始めたのは18歳のときで、もう45年になります。IT企業には41年勤め、昨年退職しました。パスワードは185件、専用のアプリで管理しています。銀行も証券会社も、ほとんどネットで済ませています。

そんな私が、いちばんできていないこと。それが「デジタル終活」です。

正直に書きます。私に何かあったとき、妻は何ひとつ分からないと思います。ネット銀行がどこにあるのか、証券口座はどうなっているのか、毎月引き落ちているサブスクが何なのか。伝えていないのです。

「早くやらなければ」と思いながら、どうしても腰が上がらない。今日は、その理由も含めて、正直にお話しします。

父のときは、まるで”謎解き”でした

数年前、父を見送りました。そのあとの手続きで、私は思い知らされたのです。遺された側は、こんなに苦労するのか、と。

まず、年金が振り込まれる金融機関の通帳が見つかりませんでした。(これは亡くなる1年ほど前のことですが、結局、再発行しました。)

そして本当に大変だったのが、「どこに何を払っていたのか」を突き止める作業でした。母は認知症で、聞いてもはっきりした答えは返ってきません。父の頭の中にしかなかった情報が、そのまま失われてしまったのです。

私がやったのは、こんなことです。

  • まずどの銀行に口座があり、どんなカードを持っていたのかを、家中の書類から探し出す
  • 次に通帳を記帳して、引き落としの「カタカナの名義」を一つずつ推測する
  • 電気(実家の分、店の分)、ガス、水道、その他——正体を突き止めて、一つずつ手続きしていく

カタカナの略称だけを頼りに、「これはどこの会社だろう」と推理していく。まるで謎解きです。私は途中から、ドラクエの謎解きだと思って取り組むことにしました。そう考えないと、気が滅入ってしまうからです。

幸い、私はこういう作業が苦にならない性分でした。でも、もし遺されたのがITに不慣れな家族だけだったら——考えると、ぞっとします。

父の時代は、まだ”紙”があった

ここで、はっと気づいたことがあります。

父の場合は、まだ通帳があり、紙の請求書がありました。だから、家中を探せば、手がかりが見つかったのです。時間はかかっても、たどり着けた。

では、私の場合はどうでしょう。

  • 通帳のないネット銀行
  • 紙の書類が来ないネット証券
  • 15以上あるサブスク(毎月カードから自動で引き落ち続けます)
  • そして、すべての入口である、ロックされたスマホ

私が突然いなくなったら、家に手がかりはほとんど何も残りません。父のときのような”謎解き”すら、成立しないのです。探すべき紙が、そもそも存在しないのですから。

妻には一度、冗談でこう言いました。「俺が死んだら、顔認証でスマホのロックを解除してくれ」と。笑い話にしてしまいましたが、実のところ、笑い事ではありません。

私がやっていることは、”半分”だけ

まったく何もしていないわけではありません。でも、正直に言えば、どれも半分で止まっています。

1PasswordのEmergency Kit(緊急キット)

使っているパスワード管理アプリには、万一のときに家族が中身を開けられるようにする「Emergency Kit」という仕組みがあります。私はそれを作成して、OneDrive(クラウド)に保管しています。(パスワード管理の話はこちらの記事に書きました。)

ところが、ここに落とし穴があります。クラウドに置いてあっても、そのクラウドに入るには、やはりパスワードが必要なのです。本来は印刷して、家の安全な場所に保管するべきもの。そして何より——妻は、その存在を知りません。

クレジットカードの登録先一覧

どのカードを、どのサービスに登録しているか。これはExcelで一覧にしてあります。ただ、これは終活のために作ったものではなく、カードを更新したときに登録を変更し忘れないための備忘録でした(この記事で紹介しています)。結果的に終活の役にも立つはずですが、これも妻には共有していません。

つまり私は、「材料は作ったのに、渡していない」状態です。金庫を用意して、鍵の場所を誰にも教えていないようなものです。

なぜ、こんなに腰が重いのか

ここが、この記事でいちばん正直に書きたいところです。

やるべきことは分かっています。手も動かせます。時間もあります。それなのに、進まない。理由を自分に問いかけてみて、行き着いた答えは、こうでした。

私はまだ、自分が死ぬことを、受け入れきれていないのだと思います。

人は必ず死ぬ。当たり前のことです。父を見送って、その現実を目の前で見たはずなのに。それでも、自分のこととして、いざ準備を始めようとすると、手が止まる。「まだいいだろう」と思ってしまう。

終活が進まない理由は、面倒だからでも、忙しいからでもありませんでした。心の問題だったのです。同じ気持ちの方、きっと少なくないのではないでしょうか。

母の”現金管理”から、思うこと

もう一つ、今まさに実感していることがあります。

認知症の母のお金は、今、私が管理しています。家計を根本から見直し、遺族年金の手続きもして、なんとか黒字にしました。今は母の口座からお金を引き出して、生活費に充てています。

この管理で、いちばん骨が折れるのが現金です。何に使ったか分かるように、レシートや領収証をノートに貼り付けて、そのつど手元の残高を記録しています。これが、なかなかの手間なのです。

私自身はほとんどキャッシュレスなので、現金の管理は、正直かなりの負担に感じます。そして、ここで気づくのです。

私が倒れたら、家族は逆の苦労をする。母の現金管理に私が苦労しているように、私のキャッシュレスな暮らしを、家族が解読しなければならない。しかも、手がかりの紙は、ほとんどない——。

だから、まずこの一歩から

完璧な終活は、私にはまだできません。でも、それでも今日からできる、小さな一歩はあります。私自身、これから手をつけます。

  1. Emergency Kit(またはそれに代わるもの)を印刷する。クラウドの中では、いざというとき開けません。紙が確実です
  2. その置き場所を、家族に伝える。金庫でも引き出しでもいい。「私に何かあったら、ここを見て」の一言が、すべてを変えます
  3. 「どこに何があるか」の一覧を作る。銀行・証券・カード・サブスク。細かい残高やパスワードそのものは書かなくていいのです。「どこを見ればいいか」だけで、家族は探し始められます

逆に、気をつけたいこともあります。パスワードそのものを紙に書き散らすのは危険です。それは終活ではなく、ただの情報漏れになってしまいます。「保管場所を伝える」と「中身を書き写す」は、まったく違うことです。

まとめ:一枚のメモが、家族を救う

父の手続きで学んだのは、遺された家族が困るのは財産の額ではなく、「どこに何があるか分からないこと」だという事実でした。

そして今の私たちは、通帳も請求書も持たない時代を生きています。便利になった分、遺されたほうの謎解きは、はるかに難しくなりました。

私はまだ、自分の死をきちんと見つめることができていません。だから終活も止まったままです。それでも——「どこを見ればいいか」を書いた一枚を残して、その場所を家族に伝えるだけ。それだけで、家族の苦労は何分の一にもなるはずです。

この記事を書いたのは、たぶん自分に言い聞かせるためです。まずは、印刷することから始めます。

今日が人生で一番若い日です。ぜひ、今日から一歩踏み出しましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました