きっかけは、床屋さんのひとことでした。
「○○さん。平日、会社に行く必要もうないんだから、入ったら?」
——たしかに、そうだ。私は去年、会社を辞めました。平日が、まるごと自由になったのです。それなのに、なぜか”平日に出かける”という発想が、自分の中になかった。長年、会社に通う生活が染みついていたのでしょう。
そうして私は「大人の休日倶楽部」に入会しました。そして先日、前の晩に思い立って、青森まで日帰りの一人旅をしてきました。今日は、その話をします。
大人の休日倶楽部に入りました
大人の休日倶楽部は、JR東日本の、大人向けの会員サービスです。年齢によってコースが分かれていて、私はまだ65歳未満なので「ミドル」のほうに入りました。
会費は、初年度は無料。翌年度からは、年会費2,100円とカードの年会費524円で、合計2,624円(税込)です。
実は、妻のほうが先に入っていました。ママ友と旅行に行くのに使っていたのです。私は「自分には関係ない」と思っていました。平日は会社でしたから。……その前提が、退職で消えていたことに、床屋さんに言われるまで気づいていませんでした。
5日間乗り放題で、20,000円
会員になると、期間限定で「大人の休日倶楽部パス」という切符が買えます。私が使ったのは、JR東日本のフリーエリア内が5日間乗り放題で20,000円というもの(えきねっとでの購入価格)。新幹線にも乗れます。
東京を往復して、青森を往復すれば、それだけで元は取れる——そう分かっていたので、細かい計算はしませんでした。(切符の買い方や「えきねっと」については、こちらの記事に詳しく書いています。)
前の晩に思い立って、青森へ
さて、ここからが本題です。
ある日の夜、ふと「明日、どこかへ行こうか」と思いました。行き先が決まっていたわけではありません。そこで私は、AIに「日帰りで行くならどこがいいか」と相談しました。すすめられたのが、青森でした。
翌朝、私は新幹線に乗っていました。前日の夜に思い立って、日帰りで青森。しかも一人で。現役時代なら、絶対にありえなかったことです。旅行といえば何週間も前から計画するものでしたから。
この身軽さこそ、退職して手に入れた、いちばんのぜいたくかもしれません。
まずは「のっけ丼」へ
青森でいちばんの目当ては、青森魚菜センターの「のっけ丼」でした。

これは、自分で作る海鮮丼です。仕組みはこうなっています。
- 案内所で食事券を買う(12枚券2,200円、1枚190円)
- 指定のご飯屋さんで、券をご飯に引き換える
- 館内の約30店舗を回り、好きな具材と券を引き換えて、どんどんご飯にのせていく
- 完成したら、休憩所で食べる

ここで、初めて行く方にひとつだけコツをお伝えします。いきなり買い始めないこと。まずはぐるりと場内を一周して、どんな具材があるかを見てから選ぶのがおすすめです。私も最初にひと回りしました。何しろ約30店舗もあるので、手前のお店で券を使い切ってしまうと、奥にあった「これが食べたかった」に出会えません。

自分で選んで、自分でのせた丼です。味は、言うまでもありません。
……と、ここで気づかれた方がいるかもしれません。「青森なのに、ウニがないじゃないか」と。おっしゃるとおりです。実は私、ウニがちょっと苦手なのです。せっかくの名産品を前にして申し訳ないのですが、こればかりは仕方ありません。
でも、それでいいのだと思います。自分の好きなものだけを、好きなだけのせられる。それが、のっけ丼のいちばんの魅力なのですから。ウニがお好きな方は、ぜひ思う存分どうぞ。
ワ・ラッセと、A-FACTORY
おなかがいっぱいになったあとは、港のあたりを歩きました。ねぶたの展示施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」と、りんごのお酒などを売っている「A-FACTORY」です。

この2つは、お土産を買うのにも、休憩するのにも、ちょうどいい場所でした。特に私のような60代には、この「休憩できる」が大事です。
正直に書きますと、港のまわりを歩き回って、けっこう疲れました。そこでA-FACTORYでドリンクを飲みながら、しばらく休憩。無理に歩き続けず、座って景色を眺める。これも旅の時間だと思うのです。
羽田空港で、まる一日
この5日間では、羽田空港にも行きました。

空港に着くと、こうした季節の飾りつけが迎えてくれます。これを見るだけでも、少し旅の気分になるものです。
そして私は飛行機が好きなので、まずは展望デッキへ。飛び立っていく飛行機を、ただ眺めている。それだけで一日いられます。

この日いちばん嬉しかったのは、ルフトハンザのボーイング747に会えたことです。いわゆるジャンボ機。年々見かけなくなってきた機体なので、来た甲斐がありました。

……とはいえ、その日はあいにくの雨。しかも土曜日で、妻と一緒に行ったこともあり、なかなかの混雑でした。やはり、空いている平日がいい。これも、退職した人間の特権です。
車内は「ジジババ率9割」でした
この旅で、いちばん印象に残っていることを書きます。
大人の休日倶楽部パスが使える期間、新幹線の車内はまさに「ジジババ率9割」でした。私も含めて、みんな同世代です。この光景が、なんだかおかしくて、そして少し心強かった。
青森からの帰りの新幹線で、私は隣の席の女性と話し込みました。横浜からお友だちと旅行に来たという、私より少し年上の方です。
ただ、最初から話しかけたわけではありません。私はただ黙って座っていました。きっかけは、ちょっとした”事件”でした。
隣の女性たちは、テーブルを出して、買ってきたお土産をつまみに缶ビールを楽しんでいました。ところが、飲み終わった空き缶に手が当たったのでしょう。缶が、足元に落ちてしまったのです。
テーブルを出しているので、かがんで手を入れることができません。そこで足で取ろうと、そっと足を伸ばした——その瞬間、缶を蹴飛ばしてしまい、前の座席の下へコロコロと転がっていってしまったのです。
私は、思わず吹き出してしまいました。
失礼だったかな、と一瞬ひやりとしましたが、向こうも笑っていました。それで、場がすっかり和んでしまって。そこから、自然と話が始まったのです。どこが良かった、次はどこへ行きたい——そんな他愛のない話です。
気がつけば、帰りの数時間が、あっという間でした。
一人旅は寂しいものだと思っていました。でも実際は、こういう出会いがある。誰にも気兼ねせず、行きたいところへ行って、話したくなったら話す。一人旅も、いいものです。
5日間、毎日は無理でした
正直な反省も書いておきます。
せっかく5日間乗り放題なのだからと、私は最初、「5日間、毎日どこかへ行こう」と意気込んでいました。ところが——けっこう疲れるのです。結局、途中で1日休みを入れました。
60代の旅は、詰め込みすぎないほうがいい。元を取ろうと欲張るより、行きたい日に行く。それくらいが、ちょうどいいと思います。
まとめ:安いから行くのではなく、楽しいから行く
最後に、いま思っていることを。
正直なところ、パスを使わなくても旅行に行けないわけではありません。現役時代に比べれば、お金も時間も、それなりにあります。それでも私がこのパスを使ったのは、単純に「楽しかったから」です。
切符一枚で、どこへでも行ける。前の晩に思いついて、翌朝には新幹線に乗っている。会社に通っていた頃には、想像もできなかった身軽さです。
もし、あなたが退職して、平日が自由になっているのなら。床屋さんに言われた私のように、一度、考えてみてください。「もう、平日に出かけられるんだ」と。
今日が人生で一番若い日です。ぜひ、今日から一歩踏み出しましょう。


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