「老後2000万円問題」という言葉を聞いて、不安になった方は多いと思います。でも実際に退職を経験した私が感じたのは、「お金の不安より、もっと怖いものがある」ということでした。
定年前後のちょうどその時期に、両親が相次いで認知症(記憶や判断力が低下する病気)と診断され、2人とも要介護認定(介護が必要な状態を公的に認定すること)を受けました。
仕事をしながら、毎日のように実家へ通い、買い物・掃除・食事の準備をこなした日々。あの頃が、人生でいちばんきつかったと思っています。
この記事では、老後のお金についてお伝えしながら、私自身の介護体験から感じた「お金では解決できないこと」についても、正直にお話しします。
老後の生活費、実際どれくらいかかるのか
まず、よく語られる「老後のお金」の話から整理しておきます。
総務省の家計調査(2023年)では、65歳以上の夫婦のみ世帯の消費支出は月平均約25万円程度とされています。一方、年金の受給額は夫婦合計で月20万円前後が目安です。毎月5万円ほどの不足が生じる計算になります。
この不足分を30年分(65〜95歳)で積み上げると、約1,800万円。これがいわゆる「2000万円問題」の根拠になった数字です。ただし、持ち家か賃貸か、固定費がどれだけ削れるか、年金をいつから受け取るか——これらによって、必要な金額は人によって大きく変わります。
見落としがちな「親の介護費用」
老後のお金を考えるとき、多くの方が自分自身の生活費や医療費は計算に入れます。しかし、見落とされがちなのが「親の介護にかかるお金と時間」です。
私の場合、両親が同時に認知症になりました。別居していたため、仕事が終わった後に実家へ向かい、食事を作って、掃除をして、買い物をして帰る——そんな日々が続きました。当時は現役で働いていましたが、それでも体力・時間・精神力がギリギリの状態でした。
公的な介護サービスを使い始めて変わったこと
転機になったのは、ヘルパー(訪問介護員)さんにお願いし始めたことです。要介護認定を受けると、介護保険(40歳以上が加入する公的保険)を使ってさまざまなサービスを利用できます。自己負担は原則1割(収入によって2〜3割)で済みます。
「申し訳ない」「お金がかかる」と思って、サービスを使うことをためらう方も多いと聞きます。でも、私の経験からいえば、専門家に頼むことは家族みんなのためになります。ヘルパーさんが入ることで、私自身の余裕も少し取り戻せました。
2年前に父が亡くなったことで、負担はさらに減りました。これは正直な気持ちとして、複雑なものがあります。悲しみと、少しの安堵感と。介護を経験した方なら、わかってもらえるのではないでしょうか。
お金より怖かった「精神的な消耗」
私自身は、ありがたいことに貯蓄や株式資産があったため、お金の面での不安はそれほど大きくありませんでした。
でも、精神的な不安のほうが、はるかに大きかったのです。
「両親は今日、ちゃんとご飯を食べられているだろうか」「何かあったらすぐに駆けつけられるだろうか」「この状況はいつまで続くのだろうか」——そういった不安が、頭から離れない日々が長く続きました。
お金があれば解決するものではありません。近くに頼れる人がいるか、行政や地域のサービスとつながれているか、自分自身の「逃げ場」があるか——こういったことが、長期的な介護生活を乗り越えるためにはとても大切だと感じています。
老後の備え、お金以外にやっておくべきこと
体験を踏まえて、60代のうちにやっておいてよかったこと・やっておけばよかったことを整理します。
① 地域包括支援センターに連絡先を持っておく
介護が必要になったとき、最初の相談窓口になるのが「地域包括支援センター(高齢者向けの総合相談窓口)」です。お住まいの市区町村に設置されています。いざというとき慌てないよう、場所と連絡先を把握しておくと安心です。
② 家族と「もしも」の話をしておく
親の介護や、自分が介護される側になったときのこと。なかなか話しにくいテーマですが、元気なうちに家族で話し合っておくことが大切です。「どこで暮らしたいか」「どんな介護を希望するか」を共有しておくだけで、いざというときの判断が楽になります。
③ 自分の資産状況を「見える化」しておく
老後の生活費を考えるうえで、まず必要なのが現状把握です。預貯金・年金見込み額・保険・投資資産を一覧にしておくと、将来の計画が立てやすくなります。スマホの家計管理アプリ(マネーフォワードMEなど)を活用するのもひとつの手です。
まとめ
老後のお金について、そして私の介護体験からお伝えしました。
- 老後の生活費の不足額は人それぞれ。まず自分の収支を把握することが第一歩
- 親の介護費用と時間的・精神的な負担は、想像以上に大きい
- 公的な介護サービスを早めに活用することで、家族の負担を減らせる
お金の備えも大切ですが、精神的な余裕や、頼れる人・サービスとのつながりも、老後を安心して過ごすための大切な「資産」だと感じています。あなたはまず、どこから始めますか?
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・医療等の専門的なアドバイスではありません。実際の判断・手続きは、税理士・ファイナンシャルプランナー・医師等の専門家にご相談ください。


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