「老後2000万円問題」という言葉に、不安を感じている方は多いと思います。私も定年前は、お金のことばかり考えていました。
ですが、実際に退職前後を過ごしてみて、私が痛感したのは違うことでした。お金の不安より、はるかに怖いものがある——それが、親の介護です。
ちょうどその時期、私の両親が相次いで認知症(記憶や判断力が低下する病気)と診断され、2人とも要介護認定を受けました。今日は、あの半年間に実際に起きたこと、現場で身につけた知恵、そして「お金では解決できなかったこと」を、正直にお話しします。
老後のお金の話は、正直「二の次」だった
先に、お金の話にも触れておきます。
一般には、65歳以上の夫婦世帯で毎月5万円ほどが不足し、30年で約1,800万円足りない——これが「2000万円問題」の根拠とされる数字です。ただ、これは持ち家か賃貸か、固定費をどれだけ削れるか、年金をいつから受け取るかで、大きく変わります。自分のお金の心配は、老後資金の見える化で一度整理しておけば十分だと、今は思っています。
なぜなら、私が本当に追い詰められたのは、お金ではなかったからです。
仕事のあと、毎日実家へ通った日々
両親が認知症と診断されてからしばらく、私たち家族は毎日、実家へ通いました。
私が仕事を終えたあと実家へ向かい、簡単な掃除、買い物、食事の準備をこなす。これを、私・妻・息子の3人で手分けして回し、夜19時半ごろにようやく帰宅する——そんな毎日でした。
現役で働きながらの介護は、体力も、時間も、気持ちも、常にギリギリでした。「今日はもう無理かもしれない」と思った日も、一度や二度ではありません。
救われたのは「早く専門家につながれた」こと
この半年を乗り越えられた最大の理由は、早い段階で専門家につながれたことでした。
幸い、妻の友人にケアマネージャー(介護の計画を立てる専門職)がいて、すぐに相談に乗ってもらえたのです。要介護認定の審査、病院の紹介、ヘルパーさんの手配——右も左も分からなかった私たちを、一つずつ導いてくれました。
もし身近にそうした専門家がいない場合は、地域包括支援センター(高齢者向けの総合相談窓口。市区町村にあります)が最初の窓口になります。「どこに相談すればいいか分からない」というときは、まずここに電話してみてください。知識がないまま一人で抱えるより、その一本の電話が、何倍も早く事態を動かします。
実際の介護の形と、月の費用
ケアマネージャーさんと相談しながら、サービスは段階的に増やしていきました。最終的に落ち着いた1週間の形と、公的介護保険を使った自己負担(原則1割)は、こんな具合です。
- 月曜:デイサービス(1日コース)/月8,000円ほど
- 火〜木:ヘルパーさん(健康チェック・買い物・掃除・簡単な食事準備)/月7,000円ほど
- 金曜:デイサービス(午後コース)/月2,000円ほど
- 土日:私が直接通い、1週間の様子を確認。足りないものを買い、母と外食をすることも
自己負担は、合わせて月1万7,000円ほど。ただし、これは母が要介護1(介護の必要度としては軽めで、身の回りのことはある程度自分でできる状態)だからこその金額です。介護の必要度が上がれば、利用するサービスも費用も大きく変わります。あくまで「一つの例」としてご覧ください。それでも、「介護保険を使えば、これくらいから専門家に支えてもらえる」ということは、知っておいて損はありません。「申し訳ない」「お金がかかる」とためらう方もいますが、私の実感では、プロに頼ることは家族みんなを救います。
現場で身につけた、こまかい知恵
ここからは、実際にやってみて「これは役立った」という工夫です。同じ立場の方の参考になればと思います。
お金は現金でなく、プリペイドカードで
ヘルパーさんに現金を渡すことはできません。そこで、買い物用のプリペイドカードにチャージして使ってもらう形にしました。
日誌(ノート)で状況を共有する
血圧などの健康状態、食事の様子、連絡事項を、毎日ノートに記録してもらいました。離れていても、親の一日が手に取るように分かります。
急な連絡はSMSで
ヘルパーさんのリーダーから、「プリペイドの残高が減ってきた」「灯油が少ない」「お米が残りわずか」「下着が足りないようです」といった連絡が、SMSで届く仕組みにしました。細かいことですが、これが本当に助かります。
薬は「ワンドーズ」に
認知症があると、薬の管理が難しくなります。薬局で1回分ずつ包んでもらう「ワンドーズ」にして、毎朝デイサービスやヘルパーさんに声かけをお願いしました。
灯油はポリタンクに変更
以前は屋外タンクに100リットル配達してもらっていましたが、鍵がなく盗難に遭ってしまいました。鍵を付けることも考えましたが、認知症の母には開けられません。結局、少量のポリタンクに切り替えました。——こういう「想定外」が次々に起きるのも、介護の現実です。
サービスを使っても、家族の役目はなくならない
デイサービスやヘルパーさんにお願いして、負担はかなり減りました。ですが、「プロに任せたら、あとは終わり」ではありません。土日には、家族にしかできないことが、まだ結構残っているのです。
私の場合、こんなことをしていました。
- 母の通院の付き添い
- 母が使った現金の記録(ノートに金額を書き、領収証を貼り付ける)
- 買い物用プリペイドカードへのチャージ
こうした「お金」と「からだ」の管理は、やはり家族が担う部分です。サービスは家族を大きく助けてくれますが、家族の役目をゼロにはしません。だからこそ、「何を任せて、何を自分でやるか」をあらかじめ線引きしておくと、気持ちがぐっと楽になります。
お金より怖かった、精神的な消耗
私自身は、ありがたいことに貯蓄や株式資産があり、お金の面での不安はそれほどではありませんでした。それでも、精神的な消耗のほうが、はるかに大きかったのです。
「両親は今日、ちゃんとご飯を食べられただろうか」「何かあったとき、すぐに駆けつけられるだろうか」「この状況は、いつまで続くのだろうか」——こうした不安が、頭から離れませんでした。
2年前に父が亡くなり、負担は減りました。正直に言えば、そのとき私の胸にあったのは、深い悲しみと、ほんの少しの安堵感でした。この複雑な気持ちは、介護を経験した方なら、きっと分かってくださると思います。お金では、こうした心の重さは解決できないのです。
あの頃の自分に、かけたい3つの言葉
もし、あの半年前の自分に一言かけられるなら、私はこう言います。
- 自分で全部やろうと思うな
- 頼れるものやサービスは、全部使え
- 一人で抱え込むな
これが、介護を経験した私からの、いちばん伝えたいメッセージです。がんばり屋の人ほど、抱え込んでしまいます。でも、抱え込んだ先に良いことは何もありません。使える制度も、頼れる人も、遠慮なく頼ってください。それは決して、親不孝ではありません。
まとめ
両親の介護を経験して、私が学んだことをまとめます。
- 老後は「お金の備え」に目が行きがちだが、親の介護の時間的・精神的な負担は想像以上に大きい
- 早く専門家(ケアマネージャー・地域包括支援センター)につながることが、何よりの近道
- 公的介護サービスを使えば、月1〜2万円ほどの自己負担で家族の負担を大きく減らせる
お金の備えも大切です。ですが、精神的な余裕や、頼れる人・サービスとのつながりも、老後を安心して過ごすための立派な「資産」です。どうか、一人で抱え込まないでください。
今日が人生で一番若い日です。ぜひ、今日から一歩踏み出しましょう。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・医療等の専門的なアドバイスではありません。介護サービスの内容・費用は状況により異なります。実際の判断・手続きは、ケアマネージャー・地域包括支援センター・医師等の専門家にご相談ください。


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